好きなんです、FAプロが・・・

『篠原五月の流出ビデオ プライベートSEX』 監督・ヘンリー塚本


多分、現在この作品が置いてあるレンタル店を見つけるのは、 万馬券を当てるより難しいかと思われます。


セックスのディープな快楽や後ろ暗さ、喜び哀しみを、湿った質感のドラマで描く孤高のAVメーカー、FAプロ。
明るく楽しく元気なセックスに疲れた時、ここに戻って来たくなるのです。


もうかれこれ10年位前でしょうか。篠原五月さんという方は当時FAプロの看板女優さんでして、塚本監督の愛人であったとも言われていました。


『プライベートSEX』


このタイトルからして謎めいていまして、ドラマものオンリー(私が観た中では)のこのメーカーで「篠原五月のプライベート」という虚構を作り上げるのか、それとも本当のリアルドキュメントを見せるのか?
役者の素・生の姿を作品で見せるような事をこの監督がするなんてありえない。そう思いながら見始めましたが・・・


これが意外な展開でびっくり。度肝を抜かれました。
思いっきりヤラセのプライベート盗撮映像で始まるのですよ、最初は。
もしかして60分これでいくんじゃないだろーなぁと心配し出した頃、同棲相手(という設定。のちにSMビデオで有名になる縛師・奈加あきらさん)の男性と四畳半でうどんすすり合ったり、公園でブランコに乗ったり、神社にお参りしたりするという、のんき極まりない映像を見させられます。
一体何を見せたいのだ?!と、この作品の意図がチンプンカンプン。
しかしまあ、エゲつなくおまんこしながらも可愛らしくじゃれあう微笑ましい二人の姿にほのぼのした気分で見てしまうのも束の間、後半はヘンリー塚本監督によるインタビューが始まります。
他社のビデオで本番して乱れ狂っていた篠原五月に嫉妬したらしい監督の、激情ほとばしる求愛に答える篠原五月。 おっそろしい程感情の高ぶった深いキスをし合います。 カメラが回っていながらも、まさにプライベートな情交を見せ付ける監督の肝の据わり具合に圧倒されてしまいます。
こんなの中学生なんかの多感な時期に見ちゃったら、後ろめたさとショックでしばらく周りの大人達の顔まともに見られなくなるでしょう。 ああよかった私、子供じゃなくて・・・(とは言いつつ充分ショックでした・・・)


そんな激情セックスが終わった後は、何故だかどこかの河辺で監督の趣味(?)のエアガンで遊ぶ二人の姿や、これは貴重な撮影現場での演出風景(監督自らが篠原さん相手にFA名物ディープキスをし、新人女優さんに演技指導)や、これまた珍しいハメ撮り風の生撮り映像やらと、盛り沢山な、というか、滅多に見られないFAファンにとっては価値ある映像を、前後の脈絡を無視して詰め込んだゴーカイな編集で見せるのです。


ヘンリー塚本監督という人は、不器用な頑固一徹のような人で、男女の欲望ほとばしる情念を撮らせたらAV界イチだと思うんですけど、作品の完成度とかそういうものを組み立てる能力みたいなものがあまりない人のようで、この作品でも、いちばんの見せ所である監督と篠原五月の激戦を見せた後で、何故か篠原さんが肉じゃが作って監督にふるまう日常場面を見せたりしていて、場面場面は面白いのですが、作品としてのまとまりがなく、地下ビデオとか素人が撮った裏ビデオとか、そういうものに近い感じがするのです。大衆性がないといいますか、エンターテイメントしていないといいますか・・・
しかし、そこそこのまとまりを見せる小奇麗なインディーズ単体系ビデオなんかより、訴えてくる力なんかは圧倒的に違いますし、これはこれで、この無骨さが味になっているので良いのだと思います。


存在自体がマニアックな塚本監督と篠原五月。


撮影現場映像のひとコマ。
スタッフや若い新人男優にちょっかいを出し、おどける篠原さん。 でもカメラが回ると、いつものあの篠原五月を演じる篠原さん。
このギャップ。
FAのビデオを見ている人は、まさか監督の「カット」の一秒後にこんな篠原五月がいるとは誰も分からないでしょう。
この可愛らしい、もう一人の「篠原五月」の魅力を伝えたい為に、この作品が出来たのかもしれません。