『奈落の舞 復活の女神 浅倉舞』

AV女優の復活劇はいつだってファンをがっかりさせるものですが、この作品は違いました。


『奈落の舞 復活の女神 浅倉舞』(シネマジック)監督 石川欣 1999年


セルビデオ」や「キカタン」。あと「ぶっかけ」とか「中出し」とか。そんな言葉は耳にしなかった1990年初頭。誰もが驚くような美貌と可憐さで、高級美少女レーベル・ティファニーよりデビューした浅倉舞という女優さん。
浅倉さんのビデオを見て「ビデオに出てもいいかも」と思ったという若いモデルさんは結構見かけました。でも、今の若いビデオユーザーさんの中には、もしかしたら存在を知らない人だっているかもしれませんね。



3年ぶりにAVに復帰した浅倉舞。かつての人気アイドルも、もう26歳。
「男とうまくいってて幸せならビデオになんか出ないよな」「どうせ金の為なんだろ?」「そのトシで若い娘にまじってお○んこ晒すのかよ」
そんな世間の苦い風を浴びせるダークな出だしで始まるこの作品。男優日比野達郎氏にレイプされながら、かつて現役だった頃のブリブリ衣装で微笑む彼女のイメージショットがインサートされ、あの頃とはもう違う彼女の現状が強調されます。
触れてはまずい側面には触れず、とにかく持ち上げてVIP待遇でもてなして、機嫌を損なわずにお帰り戴いて・・・そんな有名女優の復活作とは対極にある、浅倉舞の復活劇。


見ているファンも、本人も、周りにとってもいい面(思い)ばかりではないAV復活。
けれど、この作品が素晴らしいのはここからなんです。


「やだねぇ辛いねぇタイヘンだよ〜」
でっかい黒い羽根扇子をヒラヒラさせて再び日比野氏が現れ、世話焼きババアみたいな口調で浅倉舞を虐め始めます。
「私、どうしたらいいの。これから」と涙ぐむ彼女に日比野氏は言う。「楽しむんだ。この状況を楽しむんだ」そして「くだらないことをしよう」と言ってちゃぶ台を持ち出し、わかめ酒やらお刺身プレイだのなんだのを、大御所浅倉舞にぶちかますのです。
この辺りからこの作品に笑いの要素が現れ始め、家庭用のビデオカメラで「AVアイドルの君を画質の悪いビデオで撮ってあげよう」という日比野氏と、そこから逃げる浅倉舞との追いかけっこが始まり、最初は嫌がって逃げていた彼女の表情がだんだんと変化していく様に、見ている側は不思議な解放感を覚えるのです。


「そうだ楽しめ!もっと楽しむんだ!」日比野氏が叫び、浅倉舞も序所に壊れていきます。挑発するようにお尻を振りながら階段を上り、花瓶に挿してあった花を手にし、壁に貼ってある外国人女性のポスターのポーズを真似したり、まるでただの子供のように、この鬼ごっこを楽しんでいる。
(この場面で、下着姿の浅倉さんがブラジャーを取るタイミングはあまりに素晴らしく、スタジオではない古びた日本家屋のような一軒家の中を走り回るふたりの演技に、思わず見入ってしまいます)


暗い地下倉庫のような場所に連れられ、ファンの男らに群がられ犯される浅倉舞。そして「最近売れてる志良玉君だ。抱いてもらいなさい」と日比野氏。「ボク知らないんですよね。昔売れてたんですか?」と屈辱的な言葉を浴びせられ、無表情で頷きうつむく浅倉舞。そしてカラミは始まります。
「どこがキモチいいんですか」と志良玉。「あなたは?」「えっ?」「あなたはどこが気持ちいいの?」今までずっと黙って耐えていた浅倉舞が聞き返すのです。「あなたはどうなの?」と。


引退した後の3年間何してたんだとあんたらは聞くが、あなた達こそ何していたのか、と。現場にいる志良玉、日比野達郎、カメラマン、照明、そして監督にも、浅倉舞は問いかけるのです。「堕ちていくのはあなただろう」と。彼女の復活を意地悪く見つめるユーザー達にもその声は向けられるのでしょう。
そして毅然と言い放つのです。「私は何も変わっていない。AVは好きだから出演する」そんなシンプルな言葉ひとつで大逆転を遂げてしまうのです。


26歳でAV再出演。3年間のブランク。そりゃあ色々邪まな探索もされるし、失笑を買うこともあるでしょう。「借金返済の為にまたAV出んの?男に騙されて。堕ちぶれたねぇ浅倉舞も」そんな世間の声を受け入れながら「うん。それも本当だけど、これも本当。AVが好きだから戻って来たのよ」そんな実に純粋で簡単な言葉で見事に居直ってしまった。納得させてしまったのですね。


そしてラスト。
浅倉舞と日比野氏、志良玉さんが手をつなぎ輪になって飛び跳ねている。「わーいわーい」と笑いながら、大の大人が仲良く楽しげに飛び回るのです。劇中虐められていた浅倉舞も、彼女を虐めていた男達も、そんなこと関係なく手をつないで。


これまでにも、そしてこれからも色々あるだろう。そりゃあいいトシこいたオトナだもの。この世の不条理、辛いこと、救いのない現実。でも、この瞬間だけは一緒になって壊れていたい。そんな切なさを内包した無邪気なオトナ達の姿が、無償に胸に響きました。


笑い飛ばそう。そして居直ろう。
どうしようもなくどん詰まった時には、このビデオの、あのラストシーンの3人を思い出し、救われたりしています。