『ナオミ/34』

H−1作品、最後のレビューになりました。


『ナオミ/34』 監督:今田哲史
作品の詳細はこちらで↓
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タイトルを見て「ん?熟女ものか?」と思われた方もいるかもしれませんが、違います。
今作が初監督作という今田哲史監督が撮ったのは、「自分がいちばん撮りたい人を撮りたい」「面白くて、エロいナオミさん。僕が撮らないで誰が撮るのだろう」と自身が思い入れるナオミさん(34)。「一ヶ月前に一度だけ寝ている微妙な関係」であるというふたりが、不安定な距離感を抱えながら彼女の思い出の場所へと向かうロードムービー風ドキュメンタリーです。


監督とナオミさんはある映画制作会社の元同僚であったらしく、今はもう倒産してしまったその事務所の前で待ち合わせする場面から始まります。
きれいな花模様があしらわれたお洒落な緑色のワンピース姿で現われるナオミさんは、決して美人ではないけれど雰囲気があり、表情や仕草に子供みたいな可愛らしさがあって、それでいてしなやかな艶も感じさせる魅力的な女性で、とてもAVに出るタイプには見えません。監督の熱意と想いにほだされて一肌脱ぐことを選択しながらも、きっと言葉には表さない何らかの想いを胸に秘めているであろうナオミさんは興味深く、また「撮影」と「ナオミさん」両方に先走っている感じの監督、このふたりの微妙な揺れと関係性にグッと惹き込まれ、最後まで目が離せませんでした。


夜の高速を走る車中からの映像(キラキラ光る車や信号のライトがなんときれいなことか)に、不安定なふたりの関係をやさしく包み込むような音楽が流れ、浮遊感漂う心地よさと胸を締め付けられるような焦燥感がじわじわと胸に浸透してきます。


いいなと思ったのは、ナオミさんが昔一人で訪れたという思い出の海岸を探す旅の途中、「なんでここに来ようと思ったの?」と聞く監督に、「テレビドラマで見て」と答えるナオミさん。その答えに「こんなに時間かけてやって来たのにテレビドラマとか言ってほしくなかった・・・」と軽く落胆のテロップ。(声に出して「うわ〜」とまで言っている・笑)。でも、「花がきれいでいいなと思ったんですよ」と笑顔で話すナオミさんを見て、「楽しそうにしているし、良いか」と思い直す監督。いいなあ、この場面。すごくいいです。
男の人が女の人のどういう姿にいとおしいと感じるのか、それがこの場面から伝わってくるようで。


父親からのDVに5年間のひきこもり経験と、重い経験を抱えてきながらも軽やかな空気を身に纏い楽しそうに笑うナオミさんがとても愛しく見え画面に惹き付けられてゆくのは、「僕が撮らなくて誰が撮る」という監督の真剣な思いのたまものなのだろうなと思います。


監督が恋愛関係にある女性(モデル)を撮った作品てAVには結構あると思うのですが、それを監督第一作目でやってしまうという所に決意と覚悟みたいなものを感じ、惹かれました。
今田監督は日本映画学校出身(松江哲明監督もこちらの卒業生)で、その卒業制作として撮られた『熊笹の遺言』(ハンセン病患者を追ったドキュメンタリー)という作品が、様々な映画祭で賞を獲り、渋谷ユーロスペースなどで上映されたりと、ドキュメンタリー映画の世界では一時期「時の人」となった方であるらしく、そんな人がAVに出てハメ撮りしちゃうというところに(松江監督という前例があるものの)驚きを覚えてしまうのですが、もっと驚いたのは、そのセックスの意外ともいえるエロさだったりします。


夜通し車で探し回りながらも思い出の海岸は見つからず、明け方のモーテルにてハメ撮りが始まるのですが、ナオミさんのような女性が裸になりセックスを見せるという緊張感と、ふたりの関係性が醸し出す生々しさからか、なんかものすごく新鮮でいやらしいのです。
指フェラするナオミさんに「赤ちゃんみたいだね」と呟く監督。正常位でハメながら、カメラを向けられると「嫌ぁ」と言って顔を隠そうとするナオミさん。挿入しながら、粘液って感じのネト〜っとした唾を飲ませたり、「入ってるところ見る?」と言って結合部を見せ付けたり、やっていることはAVの定番といった感じであるのに、どうしてこんなにいやらしいんでしょうか?


ふたりのこの先の行方が気になるラストも印象深く、見終わった後のこの切ない感じ・・・ これほどまでに深い余韻を感じさせてくれるAVというのも久しぶりでした。


マーケティングがどうこうとか、売れている単体女優にぶっかけとか、監督の性癖に沿ったこだわりあるエロとか、そうではない作り方、ひとりの女性に対する思いから生まれたこんなAVもあるということに、なんかとても嬉しく思いました。


今田監督は今「VIDEOGRAPH」の方で公開される作品の準備に取り掛かっているようなので、その次回作が今からとても楽しみでなりません。

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